現行の健康保険証を来秋廃止しマイナンバーカードに一本化することに伴い、高齢者や障害者ら暗証番号の設定や管理に不安のある人たちを対象に交付する「暗証番号なし(顔認証)マイナカード」の受け付けが11月末以降、全国の自治体で開始される見通しだ。
暗証番号は不要で、保険証の機能に限定。マイナ保険証に加え、マイナカードを持たない人のための資格確認書などに続く「保険証」になる。マイナ保険証を補完する証明書類が続々と登場することで現場の混乱を招きかねず、現行保険証を廃止する意味が問われる。(長久保宏美)
◆保険証としてしか使えないマイナカード新設
顔認証マイナカードは、暗証番号の管理に不安を抱える高齢者施設の関係団体などからの要請を受けた措置。医療機関で受診する際、保険証としてカードリーダーの顔認証や、受け付け職員の「目視」だけで利用できる。
総務省が参院議員の伊藤岳氏(共産)の照会に対して回答した資料などによると、マイナカードから暗証番号を利用する機能を取り除き、「顔認証」にする設定は各自治体が担う。
利用できるのは保険証のみ。マイナポータル、各種証明書のコンビニ交付など暗証番号の入力が必要なサービスは使えなくなる。カードの追記欄に「顔認証」と記載し、医療機関で見分けがつくようにする。
申請は本人か代理人が、市区町村窓口で手続きする。マイナカードに保険証利用の初回登録をしていることが前提となる。登録済みの場合は、市区町村に申請書を提出することで切り替えられる。代理人の場合は委任状が必要となる。
◆一度、マイナ保険証として登録した上で機能を外す!?
登録していない場合は、事前にセブン銀行のATMか一部医療機関に設置してある顔認証付きカードリーダーで登録する。つまり、一度マイナ保険証として登録した上で、保険証以外の機能を外す手続きをする必要がある。
顔認証マイナカードのように、マイナ保険証を利用しにくい人や機能補完のため、次々と新たな「保険証」が誕生している。資格確認書のほか、70歳以上で自己負担割合が変更した際などに発行される「資格情報のお知らせ」と呼ばれる書類や、転職などで新しい保険組合のデータ更新が遅れ、全額自費負担を避けるための「被保険者資格申立書」もある。
現行の保険証を残せば、こうした複数の証明書類や煩雑な手続きは必要ない。医療関係者からは「何のための保険証廃止か」と疑問視する声が上がる。
◆繰り返される弥縫策「健康保険証残せば済む話」
マイナ保険証を巡る政府の政策が混迷の度合いを深めている。マイナ保険証の利用率はピークの4月から減少傾向が続く中、暗証番号なし(顔認証)マイナカードなど新たな保険証が発行される
「マイナ保険証と一緒に出す書類が続々とできる。医療機関に行って1枚で済まない。だったら、健康保険証残せという話です」
全国保険医団体連合会(保団連)の竹田智雄副会長は9日に国会内で開かれた集会で、次々と生まれる書類について「保険証もどき」と表現し、厚生労働省の姿勢を批判した。
顔認証マイナカードの交付方針は7月4日に示された。高齢者や障害者が生活する施設管理者や関連団体から「施設側で秘匿性の高い暗証番号を管理することは事実上不可能」などとする批判を受けて、考案された。
来秋の現行保険証廃止を目指し、マイナ保険証の欠点を補うため、厚労省は次々と新たな「書類」を作成する方針を示してきた。
まず、マイナカードの取得自体は任意であることから、カードを持っていない被保険者は、健康保険証の代わりとして「資格確認書」を保険組合(保険者)に対し交付を求めることができるとした。
8月には、移行期の混乱を防ぐための措置として「当分の間」マイナ保険証を持っていない人と保険者(保険組合)が必要と認める者全員に職権で資格確認書を交付できるとした。
また、マイナ保険証はカードを見ても被保険者資格など保険証の情報は分からない。このため、新規に被保険者資格を取得したり、70歳以上で負担割合が変わったりした際、「資格情報のお知らせ」という書類を発行。マイナ保険証と一緒に携帯しオンラインで資格確認できない医療機関でも受診しやすくなるとした。
さらに、「被保険者資格申立書」という書類もある。マイナ保険証は持っているものの、転職などで新しい保険組合のデータ更新が遅れ、受診時にオンライン資格確認ができない場合や、カードリーダーのトラブルでエラーになった場合、無保険扱いで全額自費とならないための書類だ。記載内容は保険証とほぼ同じだ。
◆マイナ保険証の利用率は停滞 10月は4.49%
一方で、医療機関でマイナ保険証が利用される割合は低迷する。今年10月時点が4.49%で、ピークだった4月末時点の6.29%から、6カ月連続で減少している。これを打破しようと、河野太郎デジタル相と武見敬三厚労相が13日、東京慈恵会医大付属病院(東京都港区)で、利用を患者らに呼びかけた。
さらに、医療機関が患者にマイナ保険証を利用してもらうことでお得になるよう、厚労省は2023年度補正予算案で、利用促進策として217億円を充てる。24年1月から11月までの間、今年10月と比較して利用率が増加した医療機関に対し、利用件数などに応じ支援金を交付する。
保団連の事務局幹部は「マイナ保険証が患者、国民にとって便利であれば、補助金の投入は不要なはず。税金を投入してまで、マイナ保険証の利用促進に医療機関を駆り立てるべきではない」と批判している。
マイナ保険証と顔認証カード マイナンバーカードには2つの電子証明書が搭載できる。1つは「署名用電子証明書」、もうひとつが「利用者証明用電子証明書」。健康保険証のひも付け(利用登録)は「利用者証明用」の役割。マイナ保険証で医療機関を受診するには、カードリーダーにカードを設置し、顔認証で本人確認を行うか、エラーが出た場合は申請時に登録した4桁の暗証番号を入力する必要があった。「顔認証カード」はこの手間を省く。マイナ保険証を持っていない人には、保険証の代わりとなる「資格確認書」が保険者(保険組合)から交付されるが、交付時期、方法などについては未定。
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