福沢諭吉や樋口一葉、野口英世が描かれたおなじみの一万円札、五千円札、千円札が来年夏、渋沢栄一と津田梅子、北里柴三郎に変わる。一新されるのはその顔ぶれだけではない。偽造防止対策や紙幣ごとの識別性向上などのため、最新の技術が惜しみなく注ぎ込まれる。新紙幣発行のたびに、こうした技術を擁する企業が注目を集めるが、その一つが、世界最大の通貨処理機メーカー「グローリー」(兵庫県姫路市)だ。新しいお札に対応した機器の生産や既存機の改修作業がピークを迎えている。
サンプル閲覧会に装置持ち込み解析
「紙幣刷新」のニュースが飛び込んできたのは、平成31年4月9日未明。グローリーで現在、新紙幣対応のプロジェクトチームを指揮している中塚茂樹・開発企画部プロダクトマネジャー(63)は当時、「午前3時頃に『きょうにも政府が発表する』とのニュース速報を目にし、驚いた」と振り返る。
同日午前には、麻生太郎財務相(当時)が一万円、五千円、千円の日本銀行券を刷新すると正式に発表。中塚さんはその日のうちに社長に状況を説明し、間もなく社内にプロジェクトチームが発足した。
グローリーは、金融機関向けの出入金機をはじめ自動販売機やレジ釣り銭機、遊技機器などを製造。日銀は、こうした機器のメーカーに対し、令和元年5月と同年10月に説明会を開いたのをはじめ、新紙幣のサンプル閲覧会を4年1月から今年3月にかけて計4回開催した。
同社は、閲覧会に参加してはサンプルの特徴を読み取る装置を持ち込み、サイズや厚みなどをはじめとするさまざまなデータを繰り返し解析。紙幣の真贋(しんがん)や種類の違いなどを識別、分類できるかどうかなどもテストしていった。
「平成16年の前回改刷時は発表から新紙幣発行まで約2年という短期間での対応に迫られたが、今回は約5年間。ある程度、計画的に進められている」と中塚さんはいう。
「偽造防げ」20年ごと改刷
昭和50年代以降、紙幣はちょうど20年ごとに改刷されている。昭和59年に「D券」と呼ばれる福沢の一万円札、新渡戸稲造の五千円札、夏目漱石の千円が発行され、「E券」と呼ばれる福沢、樋口、野口のラインアップに変わったのは平成16年だった。
日銀によると、新紙幣を発行する最大の理由は「偽造抵抗力強化」。つまり、偽札の流通を阻止することだ。そのため、今回もさまざまな偽造防止技術が新たに投入されている。
例えば、「3Dホログラム」。紙幣の肖像が立体的に見えて回転するほか、肖像以外の図柄も見る角度によって変化する。また、従来のすかしに加え、高精彩のすき入れやバーパターンのすき入れなども採用。傾けると文字が浮かび上がる「潜像模様」なども取り入れている。
「これらは、目で見て分かる技術。さらに機械で紙幣の判別を行う」と中塚さん。「私たちは世界約130カ国の2千種類以上の紙幣を扱っている。こうした蓄積に基づき、新しい紙幣と向き合っているんです」
キャッシュレス進んだ20年後は?
プロジェクトチームは、同社が製造してきた約千種類にのぼる機器を新紙幣対応にするための技術開発をほぼ終え、現在は新しい機器を生産したり既存機を改修したりする段階に入っている。姫路の本社だけでも、製造要員を280人増やして760人態勢で一部ラインは24時間フル稼働状態だという。
前回改刷時には、前後3年間(平成15~17年度)で約900億円の特需が生まれた。今回も、今年度1年間だけでも380億円の売り上げを見込む。
20年ごとに繰り返されてきた改刷特需だが、キャッシュレス社会が進展する中で、次回はどのような形になるだろうか。
中塚さんは「20年先はどうなるか分からないが、日本は偽造防止技術や印刷技術の高さを背景に、他国に比べて偽札の流通量が圧倒的に少なく現金の信用度が非常に高い」と強調。「キャッシュレス化が進んだ今も、現金の流通量も増えている。どの段階かで、キャッシュとキャッシュレスのバランスがうまく取れるのではないか。どちらに傾いても対応できるよう、開発と製造の体力を維持していきたい」(小林宏之)
キャッシュレス社会も新紙幣発行で特需 世界最大の通貨処理機メーカーが注ぎ込む最新技術 - 産経ニュース
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