円建て社債の発行体は、長年にわたる超低金利の恩恵に浴して、比較的安いコストで安定的に資金調達することができた。だが、ここにきて日本銀行がついに金融引き締めに転じるのではないかとの思惑が強まり、状況は変わろうとしている。
金利が低いうちに資金調達しようと社債の駆け込み発行が見られる一方で、投資家の社債需要は弱まっており、一部では起債が中止されたケースもある。投資家を引き付けるために新しい起債手法を取り入れる発行体もある。
SMBC日興証券の原田賢太郎チーフクレジットアナリストは「どこかのタイミングでマイナス金利の解除があるという警戒感はある」と話す。プレミアムを求めて銘柄選別色を強める投資家と発行体が提示する条件とで目線が合わなくなっているという。
これらのことは、日本のクレジット市場が2024年に向けて不透明な状況に陥る可能性を示している。日本市場はこれまで、他通貨建ての借り入れコストが高騰する中で、安価な資金調達機会を提供することで世界的に際立ってきた。日銀が超緩和政策を後退させ始めたのと時を同じくして、他の主要中央銀行が利下げを始めるかもしれないというリスクも、この問題を難しくしている。
より大きなスプレッド
投資家は内外発行体が出す円建て債により大きなスプレッド(上乗せ金利)を求めている。ブルームバーグ指数によると、現在スプレッドは61ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)近辺で、09年の金融危機以降、毎年平均を上回っている。今年はスプレッドの変動幅がやや大きく、シリコンバレー銀行とクレディスイスの破綻が世界の金融市場を揺るがした3月時点の約68から縮小してきた。こうしたことも投資家目線に合った水準で条件決定するのを難しくしたほか、発行体が 無格付け公募債や 変動利付債といった珍しい調達手法を試みるようになった背景にもなっている。
減っていく発行
内外発行体による円建て債の発行規模は年初来で17兆7000億円と前年同期を30%も上回っている。金利が上昇する前に駆け込み発行しようとの動きを反映したものだが、同発行額は11月にかけて減少傾向にある。今月は、国内外の発行体から約2200億円の案件が準備されているにすぎない。月初に条件決定された2980億円を加えても、昨年12月に起債された約2兆3000億円に比べれば、相対的に少ない量にとどまる見通しだ。
金利上昇
国債利回りの変動により、国債へのスプレッドで条件決定される社債が増加している。これは日本銀行が16年にマイナス金利政策を導入した後に広く採用された、発行体が単にクーポンを設定するだけの慣行から変化したものだ。このことは借り手側が金利市場の変動により大きくさらされて、適切なプライシング水準を見つけにくくなっていることを示している。
みずほ証券プロダクツ本部の小出昌弘副本部長は、金利は今後上昇するというのがコンセンサスであり「絶対値での条件決定はいまの市場状況にはもはやそぐわない」と話す。小出氏の12月1日時点のデータによると、8月以降に発行された年限10年の機関投資家向け社債の約95%はスプレッドベースで発行条件が決まり、4-7月の26%から大幅に増えている。特に日銀が7月に10年債利回りの上限を実質的に緩めた後に変化が加速した。
延期やキャンセルになった案件
今年の日本の社債市場では、市場環境が不安定なことから発行計画が中止されるケースが非常に多かった。岩谷産業やグリーのほか、4日には回転ずしチェーン「スシロー」を展開するFOOD&LIFE COMPANIESが10年債の起債を見送ることが明らかになるなど、これまでに少なくとも18件の発行計画が中止または延期となった。 マーケティング期間が長いこともこうした問題を難しくしている。
渦巻く日銀政策への思惑、日本のクレジット市場を揺るがす - ブルームバーグ
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