海洋保全などを目的にした「ブルーボンド」が日本で初めて発行される見通しだ。世界でも発行実績はまだ少ないが、今秋には国際的なガイドラインが整備されるため、今後新たなESG(環境・社会・企業統治)関連のラベルが付いた債券として認知度が高まる可能性がある。
海洋に限らず地球環境全般の保全を対象としたグリーンボンド(環境債)との線引きを、どう明確化していくかが課題の一つとなる。
国内企業で先陣を切るのは水産大手の マルハニチロで、8月にブルーボンドの発行に向けた検討を開始したと 発表した。同社はこれまで普通社債で資金を調達したことがなく、ブルーボンドが社債デビューとなる。2022年度中の発行を目指し、発行時期や金額など詳細は今後詰める。
同社財務部の山崎浩志部長は「海洋資源の恩恵を受けている企業として、ブルーボンドの発行は親和性があると考えた。また、ラベル債の方が投資家の興味を引きやすいとも思った」と話す。
ブルーボンドは世界的に見てもまだ歴史が浅い。東アフリカ沖にある115の島から成るセーシェルが、18年に世界初のブルーボンド発行で1500万ドル(約20億円)を調達したのを皮切りに、翌19年の 北欧投資銀行(NIB)、21年の アジア開発銀行(ADB)などが続いたが、依然として黎明(れいめい)期にある。
公表資料などを基に主な実績を調べたところ、現在の為替レートで換算して少なくとも約2800億円相当の発行を確認できた。一方、環境省によると、グリーンボンドは21年だけで発行額が80兆円超に上り、両者の市場規模の違いが際立つ。
発行体 | 時期 | 金額(日本円換算) |
---|---|---|
セーシェル | 2018年 | 約20億円 |
北欧投資銀行 | 2019年 | 約270億円 |
中国銀行 | 2020年 | 約1300億円 |
北欧投資銀行 | 2020年 | 約200億円 |
興業銀行(香港支店) | 2020年 | 約640億円 |
アジア開発銀行 | 2021年 | 約390億円 |
インパクト測定も課題に
これまでブルーボンドの発行機運が高まらなかったことについて、マルハニチロの案件で発行を支援するみずほ証券の五十田昇吾アシスタントヴァイスプレジデントは「グリーンボンドのように明確なガイドラインがなかったことが要因の一つ」と説明する。
ただ今秋には、国際資本市場協会(ICMA)などによるブルーボンドの実務ガイドの 公表が控えており、海洋汚染や生物多様性が社会問題化する中で、今後発行に弾みがつく可能性があるという。
課題はグリーンボンドとのすみ分けだ。ブルーボンドは一般的に、海洋保全や持続可能な漁業、廃棄物処理など、水環境が関係する目的に資金使途が限られた債券を指すが、現行のグリーンボンド 原則にもこうした分野はすでに含まれている。
現時点でマルハニチロは資金使途を決めていないが、同社経営企画部・IRグループの目時弘幸部長は「どのような事業であれば『ブルー』と言えるのか、投資家から納得感を得られるストーリーを打ち出すことが重要」との認識を示す。
野村資本市場研究所の江夏あかね野村サステナビリティ研究センター長は、新たなラベル債の登場で投資家層の多様化が見込めるとする半面、ブルーボンドを通じた環境改善効果(インパクト)をどう測定していくかも重要だと指摘する。
江夏氏は「ESGの世界ではリスクとリターンだけではなく、インパクトも大切な要素だ。海の酸性度などを尺度にするのか、何をもってインパクトと見なすのかも議論していく必要がある」と話している。
「ブルーボンド」船出、日本で初の発行へ-グリーンとの線引き課題に - ブルームバーグ
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