鏡面部、傷付けず1時間
財務省は2025年に開催予定の大阪・関西万博を記念し、千円銀貨幣を発行する。この記念貨幣の製造を担うのが造幣局(大阪市北区)だ。1871年の創業式以来、通常の硬貨を含むさまざまな金属加工品を手がけ、今でも多くの製品が職人技によって生み出されている。記念貨幣はどのように作られるのか、モノづくりの現場を訪ねた。(大阪・森下晃行)
記念貨幣の第1弾となる千円銀貨幣の販売価格は消費税込み1万3800円。額面の10倍以上だが、素材に銀を使用し、特殊技術を用いて製造するため高価になる。
直径40ミリメートル、重量は31・1グラム。表面はロゴマークと万博会場の夢洲をカラー印刷し、裏面にはロゴマークを虹色発色加工であしらった。多数の微細な溝を刻み、見る角度によってさまざまな色に光る。7日の打ち初め式に参加した吉村洋文大阪府知事は「素晴らしいデザイン。多くの人に手に取ってもらえれば」と期待を込めた。
この記念貨幣の原型となるのが「種印」だ。金型用鋼材に機械で図柄を彫った後、手作業で細部を修正する。「機械だと微細な線が残ったり文字などが丸みを帯びたりする」と造幣局装金極印課の松本和彦作業長は説明。顕微鏡をのぞきながら彫刻刀のような「キサゲ」という器具を使い、細部を整えていく。
記念貨幣の場合、種印1個の修正に約10日かける。顕微鏡で30―50倍に印面を拡大しつつ、髪の毛ほどの細さの刃先を操る。「細部の修正は自然と息を止めてしまう」と松本作業長。力を込め過ぎると深く彫り込んでしまうため作業中は常に神経をとがらせる。この道30年以上のベテランだが、微妙な力加減は「経験で身に付けるしかない」という。
難しかったのはロゴ周辺。特に「OSAKA」「JAPAN」などのアルファベットは曲線が多く、直線より「角を出すのが難しい」(松本作業長)。それだけにやり遂げたときの達成感はひとしおだ。
種印の図柄を転写する「極印(こくいん)」は、記念貨幣の素材となる円形の金属にプレス加工する際、はんこの役目をする。製造工程では印面を研磨しクロムメッキを施した後、再研磨する。この最終研磨は30分から1時間以上かけて図柄やロゴ以外の鏡面部分を磨き上げる。
メッキ前の研磨が3マイクロメートル(マイクロは100万分の1)の粒径の研磨剤を使うのに対し最終研磨で使うのは0・3マイクロメートル。印面をルーペで8倍に拡大し、わずかな小傷や筋を探す。研磨中に0・1マイクロメートル以下の傷が付くこともある。研磨盤で何度も丁寧に磨き続ける。
珍しいことに研磨盤はホオノキという木材で作られている。樹脂が少なく水気に強い特性が適している。「研磨剤さえ変えればいろいろな磨き方ができる」(貨幣極印課の野﨑慧係員)利点もある。
磨き過ぎるとメッキの塗膜が削れて地が出てしまう半面、磨けば磨くほど艶が増す。「バランスを見極めるのが難しい」と野﨑係員。熟練が必要な作業で、基礎的な磨きができるまで3―4年はかかる。細部の磨きには5―10年ほどの経験が必要という。「印面を目視できない状態で磨くので、模様が光ったり磨き過ぎて消えてしまったりしないよう気持ちを引き締めて」(同)作業に臨む。
万博記念で発行…「記念貨幣」はどう作られているの?|ニュースイッチ by 日刊工業新聞社 - ニュースイッチ Newswitch
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