[ロンドン 4日 ロイター BREAKINGVIEWS] - 欧州中央銀行(ECB)のラガルド総裁はこれまで市場に行っていた支援を引き揚げる。聖書の言葉を借りるなら「ラガルドは与え、また奪い去る」のだ。ユーロ圏各国政府は今年、ECBによる債券買い入れなしで財政運営をしていかなければならない。しかも国債発行規模が過去最大になろうとしている局面で。それは強烈な痛みを伴う利回り高騰につながる恐れがあり、対応策としての大幅利下げを投資家が期待するようになれば、ECBは抵抗がより困難になることが分かるだろう。
西側の主要中銀は今年、金融緩和に乗り出すと見込まれているが、ECBは裏口で引き締めにも動きつつある。ラガルド氏はドラギ前総裁が開始した3兆ユーロ規模の資産購入プログラム(APP)の巻き戻しを続けている。さらに6月になれば、1兆7000億ユーロ規模のパンデミック緊急購入プログラム(PEPP)についても、償還金の再投資縮小を通じて撤収を始める。
バークレイズのアナリストチームによると、ECBの債券買い入れ減少に伴って、市場は2180億ユーロ相当のソブリン債の消化を迫られる。これにより償還分を差し引いたユーロ圏国債の発行規模は過去最大の6750億ユーロに達する見通しで、特に借り入れの多い国の国債利回りは上昇するかもしれない。
バークレイズの試算では、今年のイタリア国債の差し引き発行規模は1500億ユーロと前年比で23%増える。同国の各銀行はECBからの緊急借り入れ約1500億ユーロの返済も必要になるだけに、国債の追加発行分を積極的に受け入れにくくなる。
債券市場が先行きの金利低下をより重視しているのは間違いない。LSEGが集計したデリバティブの価格水準に基づくと、投資家はECBが年内に最大で計7回利下げし、現在過去最高の4%となっている中銀預金金利は年末に2.4%まで下がると想定している。こうした観測を背景に、2023年10月時点で5%近かったイタリア10年債利回りは3.7%に下がった。
だがラガルド氏は今のところ市場の大幅な利下げ催促に応じようとはしていない。23年12月の理事会後に同氏は、政策担当者は「利下げを全く議論しなかった」と強調したほどだ。このようにECBが市場の期待を裏切り続ければ、利回りは上昇して国債大量発行の負荷が増幅してしまう。
ラガルド氏の正式な任務はインフレ退治であり、各国の財政事情を気にかけることではない。しかし利回りがどんどん上がれば、既に景気後退(リセッション)に突入している恐れがあるユーロ圏経済にさらなる痛手を与えかねない。
朗報は、ラガルド氏にある程度助け船を出す余地があるかもしれないということだ。ユーロ圏の物価上昇率が今年半減すると予想されるため、ECB理事会は利下げを話題にし始めて、実行するだけの十分な根拠を持っている。その喜ばしい副産物は、経済基盤が脆弱なユーロ圏の一部諸国から、財政リスクプレミアムを要求する「債券自警団」を遠ざけ続けられるということになる。
●背景となるニュース
*ユーロ圏国債市場の指標となるドイツ10年債利回りは、2023年12月27日時点の1.89%から今年1月4日は2.03に上昇した。イタリア10年債利回りは同じ期間に3.48%から3.71%に上がった。
*バークレイズのアナリストチームによると、今年のユーロ圏国債のネットベースの発行規模は過去最大の6750億ユーロに達する見通しだ。
(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)
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筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。
コラム:ユーロ圏国債大量発行、ECBは利下げで「間接対応」不可避か - ロイター (Reuters Japan)
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